クロコダイル研究所
クロコダイル製品の理想形とは?
緻密な工程は革を知り尽くしてこそ。
リン:クロコダイル製品で最もこだわらなければならない点は何でしょう?
南澤:3つのポイントがあります。
第一に革選び。それから部位の選定。そして、漉きもきわめて重要です。
リン:革は基本中の基本ですね。
南澤:クロコダイル革の特徴である腑柄の美しさを最大限表現するために、それぞれのアイテムに一番合う革を選ばなくてはなりません。価格重視で考えた場合、明らかにサイズの大きな革を財布に使用するとか、デザイン性と称して剥ぎ目を多くするなど、クロコダイル革を使用さえしていればいいという商品が多いのです。
リン:クロコダイル革の特徴である腑柄の美しさを最大限表現するために、それぞれのアイテムに一番合う革を選ぶことが必要ですね。
南澤:製品の良し悪しが決まる「型入れ」を重視し、本来あるべき「センターどり」にすることが重要です。本来あるべき「センターどり」とは、竹腑から玉腑への流れるような腑柄の流れを製品で表すこと。ところが、竹腑だけの製品なのに、「センターどり」と説明しているケースが多くみられます。
リン:スッキリとしていて、軽い製品にするためには「漉き」がキーポイントですね。
南澤:牛革製品の職人やクロコダイル革にあまり精通していない作り手の場合、漉き切れることを恐れて充分な「漉き」を行わないことがあります。そのため、ぼてっとしたスッキリ感のない製品が多く見られます。
リン:裁断・漉きは工程の中でも肝になる部分ですね。
南澤:選んだ革、「型入れ」した部位で問題ないかどうか再確認した上で裁断を行います。ほとんどの革製品はクリッカーという機械で裁断を行いますが、理想は職人が包丁を使用して行う手裁断です。その方が再度革表面の状態を確認しながら革を断つことができるメリットがあるのです。
リン:そして、次が漉きの工程ですね。
南澤:まずはベタ(裁断した革全体)革により部位により平均0.8〜0.9ミリくらいまで薄く漉きます。さらにコバ漉きと言い、切り目のコバ面や縫い合わせる部分はさらに薄く漉きます。どこまで漉けるかの判断には、クロコダイル革の特性を知り尽くしていること、長年の経験値が重要になります。
リン:もちろん、縫製もおろそかにできません。
南澤:財布、ベルト、バッグ、靴それぞれ異なる種類のミシンで縫製を行います。縫い目は仕上がりの美しさを左右する重要なポイントなので、ミシン操作は細心の注意を払って行われます。クロコダイル革はその特性上、谷間の存在で表面に凹凸があるため、慣れていないと真っすぐ縫うことが難しい素材なのです。
リン:最後は仕上げですね。
南澤:検品・仕上げでは、縫製時に残した糸や糊のはみだしなど残った汚れ等を綺麗にします。グレージング仕上げの製品は、仕上げ塗料やクリームで最終仕上げを行います。
美しさと使いやすさの両立。製品別チェックポイント。
リン:こうしてできあがる製品ですが、それぞれに見所がありますね。
南澤:財布には、長財布 二つ折り、ラウンドファスナータイプがあります。大切な紙幣を折り曲げることなく収納できるという意味で長財布はクロコダイル革製財布の王道と言えます。
リン:それぞれ腑柄が一番綺麗に見えるサイズの革を使用するのが基本ですね。
南澤:クロコダイル革のお腹の部位を使用した「センターどり」で竹腑から丸腑への流れるような腑柄を大切にしなければならなりません。いい財布には漉きに並々ならぬこだわりが感じられます。クロコダイル革の耐久性を維持しながら、極限まで薄く漉くことで、スッキリしていて軽いという仕上がりを実現しています。
リン:代表的な製法に「切り目」「ヘリ返し」と2種類があります。
南澤:予算や使用感に応じて選べます。ちなみにガウディの「切り目シリーズ」では、現在最も入手困難で稀少性の高いスモールクロコ(ポロサス)の小判、横幅25cm前後の革を「センターどり」し、細かくて綺麗な腑柄の美しさを極めています。「ヘリ返し」は、ヘリを返すことによって財布の端部分にボリュームを持たせ、しっかりとさせることによる安心感を与えるのが特徴です。
リン:バッグでもタイプ(トートバッグ・ダレスバッグ・クラッチバッグ)、デザインに拘わらず、腑柄が一番綺麗に見えるサイズの革を使用しています。
南澤:トートバッグやダレスバッグなど、剥ぎなし1枚どりのシンプルなデザインでは、バッグの表裏面、クロコダイル革のお腹の部位を使用した「センターどり」を採用し、竹腑から丸腑への流れるような腑柄を大切にしています。漉きにこだわることで、スッキリして軽い仕上がりを実現するのは財布と同じです。
リン:バッグならではの特性は?
南澤:使用感や耐久性を考慮して、柔らかくすべき部分には玉腑の部分を、また底面のようにしっかりとすべきところには、尻っぽの硬い部分を使用します。クロコダイル革の特性を知り尽くした職人さんが、それぞれの部位の特長を活かした革使いをしているのです。
リン:靴も随所に工夫がありますね。
南澤:ホールカットシューズ、ローファーシューズ、いずれも片足1枚ずつ2枚の革を使用し、財布やバッグ同様「センターどり」を採用するのがベストです。人気の高いホールカットシューズには、剥ぎなし1枚どりのシンプルなデザインで、履きながらクロコダイル革の腑柄の美しさを満喫することができるものもあります。
リン:履き心地には細心の気配りが必要です。
南澤:履き心地を重視したやや幅広のラストを採用したり、フィッティングサンプルを試し履きした後、幅出しなど調整した上での製作が必要です。グットイヤー製法で重厚感がありながら見た目はスッキリとしたシルエット、シワになりにくいマット仕上げの革を使用しながらグレージング仕上げのような透明感のある光沢感を醸し出す靴など進化しています。
リン:ベルトでも同様のことが言えますか?
南澤:隠しオメガタイプ、ナイルクロコダイルベルトといった種類があります。ベルトは竹腑を使用して男らしさを強調する製品が多いです。8割竹腑、2割玉腑のバランスでクロコダイル革の腑柄の変化を楽しめます。切り目製法では、長年使用しても型崩れがしにくく、そのわりにスッキリとした見た目が得られます。通し無双など丸々1枚の革を使用した最高級ベルトの製作も可能です。オーダーメイドベルトでは、お客様の身体にピッタリとフィットしたベルトができます。
クロコダイル製品の上手な選び方・使いこなし方。
リン:選び方のポイントは?
南澤:使用しているクロコダイル革のこと、種類、入手ルートなどが詳しく説明されているか、作り手の顔が見えるかどうかが重要です。腑柄については、それぞれのアイテムに合った腑柄になっているかどうか、大きすぎたり、反対に小さすぎたりしないかという点、そして、竹腑と丸腑がバランスよく配置された本当の意味での「センターどり」になっているかも重要なポイントです。
リン:製法や技術面では?
南澤:「漉き」が適切に行われていて、厚くぼってりしていたり、重たく感じないか、切り目であれば断面の綺麗さ、へり返しであれば「菊寄せ」含めへりを平均した幅で綺麗に返しているかがポイントです。加えて、縫製は綺麗に真っすく縫えているか、という点もチェックしてください。
リン:色も選ぶ際の大きなポイントなっていますね。
南澤:牛革など他の皮革と比べて、クロコダイル革は高価です。一つのバッグ、財布のために特定のカラーを揃えることは難しいですが、そんなハードルを超えて新色が開発されています。選択肢が広がっていることはすばらしいと思います。
リン:手前味噌ですが、ガウディでもタンナーさんの協力のもと、スモーキーグレーやミッドナイトブルーなど独創的な色を開発しています。
南澤:職人さんとのパートナーシップがあってこそクロコダイル製品は進化できるといえるでしょう。
リン:お手入れやアフターケアについて説明があるかどうかも大切ですね。
南澤:クロコダイルは経年変化も楽しめますが、そのためにはぜひ適切なお手入をしていただきたいと思います。
リン:お手入れ方法のポイントは?
南澤:まず、ふだんから心がけておきたい点としては、雨や汗に濡らさないこと、通気性の悪いところに保管しないことです。また、ズボンのお尻ポケットには入れないなど、型崩れが起きないように扱ってください。適度に乾いた布等で乾拭きをし、続けて使わず定期的に休ませることも必要です。
リン:状態が悪くなった場合は?
南澤:万が一濡らしてしまったら、すぐに拭き取り、乾燥させることが重要です。乾燥してガサガサになっている場合など、必要に応じて専用のクリームを与えることを忘れずに。
- ※職人紹介
- ●小川佳宣
家業として父親の代から50年以上続く2代目。継承して20年、クロコダイル革製品専門で現在では、ガウディの主力職人。ベルトの他、ヘリ返し製法の長財布、名刺入れ、キーケースなど手掛ける。オーダーメイドでは、お客様のご要望にお応えすることを心がけながらもご使用になる方のことを考え、適切な提案と改良を惜しまない誠実な人柄。 - ●比留間隆
代々クロコダイル革製品専門職人の家系で4代目。「漉き」の技術は日本一と言っても過言でないほどの技術力。丈夫でありながら、いかに薄く、スッキリした製品(財布)に仕上げるかに深いこだわりを持つ。まさに「切り目の鬼」。見事な技術を持つ反面、職人気質で時間がかかったり、自分が納得できない仕事はやらない。 - ●宮崎製靴
有名ブランドの革靴を手掛けるながら、クロコダイル革など高級皮革製の靴を製作。マッケー、グットイヤー製法など、手の込んだ作りの難しい製法を得意とする。先代からのご縁で、ガウディの売れ筋のドレスシューズを製作。仕上げ技術が抜群でマット仕上げの靴をまるでグレージング仕上げのような透明感のある艶を作りだしている。 安心して靴づくりを任せられる存在。